SS0009

ロリご先祖-作:[ID] mnCvLupE ■9.08kb


『ふぅーん、私の6代下った子孫? まあいいわ、そこのスパナとって。』
少女はたんたんと、機械を弄っている。
宇宙服越しにもその表情が変わっていないことが見て取れた。
『まあいいわって、そんな…』
僕はこの十代前半にしか見えないご先祖様の、冷めた態度に狼狽した。
彼女はスパナを差し出す僕には目も向けず、左手を広げて渡せと合図した。
『前から30年も経てば随分劣化するものね…このパーツも取り替えないと。』
スパナを受け取っても礼も言わない。この少女がメカニックとして優秀なのは
分かるが人間としては色々欠けている様だ。
『危ないわよ。』
ふいに、彼女が僕に話しかけた。
『え?何が?』
考える間もなく、凄い勢いで釘が飛んできた。僕は慌てて体を横にして避けた。
本当に危ないところだった。この宇宙空間で宇宙服に穴が開けば、
命を失うことになりかねない。
『ありがとう。』
僕は、少女が警告してくれたことに礼を述べた。
『DWNG-2CHパーツ。』
『はい?』
『早く、DWNG-2CHパーツの換えよ。』
『あ、はい!』
僕はパーツを取りに、飛んでドッグに戻った。


僕は世代宇宙船のメカニックをしている。上司は、あの少女だ。
僕の先祖でもあるあの少女は、百何十年だか前に11歳で大学を出た天才だ。
普段は、定期的にこの世代宇宙船の一部のメンテナンスをするために
冷蔵睡眠状態で保存されており、こうして数十年ごとに起きてきては仕事をする。
現在百数十歳になる計算だが、実年齢は13、4といったところだろう。
なぜ、そんな幼い彼女が子供を産んだのか、詳しい事情は知らない。
この世代宇宙船の中では人口管理は重要であり堕胎は合法である。
婚外子、しかも幼くして妊娠してしまったのなら堕胎するのが常識であり、
法律上の定めだ。しかし、彼女は妊娠を隠し、法に逆らってまで子供を産んだ。
それは、よほどの覚悟の上の話のはずだった。
(きっと、子孫に会いたがっているに違いない)
僕はそう思って、彼女の居る部署への配属を希望した。
彼女がそこまでしていなければ僕も存在していなかったのだ。
ぜひとも、一回会って感謝を述べたい。そう思っていた。

でも彼女の様子では、どうやらそれは見込み違いだったらしい。

「いやぁ、ご苦労様。」
休憩室で、僕はその少女にお茶を持っていった。
彼女は礼も言わず、受け取る様子も無い。
「あ、お茶は嫌い?」
僕は笑顔を崩さず、きさくにふるまう。
「あんたが嫌い。ヘラヘラして私に近づかないで。」
あまりの台詞に、僕は笑顔のまま固まった。
少女は相変わらず表情を変えない。
「ちょっと待った、そんな悪いこと僕がしたかい?」
軽く呼吸を整えて、僕は質問した。
「あんたの存在自体が嫌なの。」
「そんな、自分の子孫の存在が嫌だって言うのかい?」
「そうよ。」
「だったら、何で子供なんて産んだのさ?」
僕の、おそらく至極まっとうな疑問に、少女は嘲笑を返した。
「バカじゃないの? 子供や子孫が大事なら、私生児として産んだ挙句
 ほっぽり出して冷蔵睡眠なんかするわけないでしょ。」
確かにそれももっともな理屈だった。
自分の子の幸せを願うなら、普通そんなことは出来ないだろう。
「私はね、あの男の人生を台無しにしてやるために子供を産んだのよ。
 あの男が離婚された挙句、犯罪者扱いで一生を終えたのはせいせいしたわ。
 でもね、あの男の子孫が未だに生きていると思うとそれだけで腹がたつのよ。」
あまり表情を変えない少女だが、内心はかなり頭に来ていたらしく、
一気にまくしたててきた。
あの男、とは彼女を孕ませた人物、つまりは僕のひいひいひい爺さんだろう。
少女と交際していたその男は、少女の妊娠発覚前に別の女性と結婚した。
しかし、少女の出産によって離縁となり、その後は侘しい人生を送ったという。
「そんな…、でもひいひい…ひい爺さんは自治政府の圧力で仕方なく
 別の女性と結婚しただけで君の事を愛していたはずだ!
 その証拠に、以後結婚はせず君との間の子を立派に育てただろう。
 だから、今僕がここに居るんだ。」
この世代宇宙船の中では婚姻統制が存在する。
経済、育児、遺伝子などの要素を管理するために、婚姻にも圧力がかかるのだ。
「そんなのは言い方を変えただけのペテンよ。
 バツイチ子持ちでロリコンじゃ誰も嫁に来ないし、子供の引き取り手も
 なかっただけの話でしょ。」
少女は吐き捨てるように言った。
「それに、あんたのその胡散臭い優しいフリがあの男に似てて、
 本当にムカつくのよ。」
そうして、冷めたお茶を残し、彼女は休憩室を出て行った。


翌日から、少女の態度はますます素っ気無くなった。
『スパナ。』
『はい。』
数時間に一回、こんな会話があるだけだ。
そして少女は、苛立ちをぶつけるように仕事に打ち込むだけだった。
そんな時に、事件はおきた。おそらく、普段の彼女だったら対処できただろう。
跳ね飛んだ金属片が、少女の宇宙服に傷を作った。
『…しまった!』
『どうした?』
僕は事情を飲み込めないまま少女に駆け寄った。
しかし、すぐに彼女は意識を失った。

「…ここは?」
少女は病院のベッドの上で目をさました。
「あら、気が付きました?」
看護士のお姉さんが優しい微笑を少女に向ける。
「お仕事中に宇宙服を損傷して、酸欠で気絶してたんですよ。」
「あ、そうか。」
少女は記憶をたどってうなずいた。
「重大な後遺症は残っていないから安心してください。
 あなたの同僚がすぐに救出したから助かったみたいですよ。」
「そう…ですか。」
少女は少し不満げに答えた。
「それでは、私は先生に報告してきますから。」
そう言って、看護婦は去っていった。
僕が、少女の病室に入ったのはその直後だったらしい。
「あ、目が覚めたんだ。」
「・・・」
少女は不機嫌そうに僕を見たが、特に悪態はつかなかった。
しかし、なるたけ顔をあわせないようにしてきた。
どうやら、僕に助けられたという立場上きまりが悪いらしい。
「仕事は?」
やっと少女が口を開く。
「ああ、有給取ったよ。」
「は? なんでそこまで…」
「だって、君は一人暮らしなんだろ。
 他に家族や親戚がいない以上、僕が面倒見るしかないじゃないか。」
「6代子孫なんて他人じゃない、あんたに世話焼かれる理由は無いわよ。」
「他人だったら、意地を張らなくていいじゃないか。」
「・・・」
矛盾を突かれて、少女はまた機嫌が悪そうに押し黙ってしまった。
天才少女といえど、中身はちょっとヒネただけの普通の子供のようだ。
だったら、変な遠慮も捻りもせず、素直な気持ちを伝えよう。
その方がこの年頃の子供には通じるはずだ。そう思った。
「僕は、君に感謝しているんだ。」
少女は顔をそむけたままだ。でも聞いている、意地っぱりとはそういうものだ。
「君にとってどうだったとしても、君が危険を犯してまで僕の
 ひい…ひいお祖父ちゃんを産んでくれたおかげで今僕が居る。
 だから、君のために出来る事があるならなんだってしてあげたい。」
窓ガラスに反射して映る少女の表情が少し変わった。
ほんのり頬に赤さが見える。それは怒りではなく恥ずかしさだろう。
「・・・」
「・・・」
しばらくの間、二人ともそのまま黙っていた。
「だったら…リンゴ剥いて。」
沈黙の後、顔をそむけたまま少女が言った。
「ああ。よろこんで。」
僕は笑顔で答えた。

その数日後。
「今日で、検査結果は全部出るんだって?」
「ええ。今までもそうだったし、問題ないと思うわ。」
少女は少しは僕に気を許してくれたのか、ちゃんと目を見て返事をくれた。
「そっか。それじゃ今日で退院だね。」
「多分ね。また、船外作業の日々ね。」
少しつまらなそうに少女は言った。
「はい、それじゃ退院祝い。」
僕は、カバンからヌイグルミを取り出した。
それは、百数十年前、ちょうど彼女が育った時代に流行ったマスコットキャラだ。
「え? こんなのどこで見つけてきたのよ?」
「いやぁー、結構探したよ。キャラクターショップに置いてなかったから
 骨董品屋を探して―」
「早くちょうだい。」
僕が苦労自慢をしている隙に、少女はヌイグルミを強引に僕の手から奪った。
「・・・ありがとう。」
少女はヌイグルミをぎゅっと抱きしめながら呟いた。
僕は思わず自然な笑みを漏らした。
「それでさ、もし良かったらだけど、今回の仕事が終わったら
 僕と一緒に暮らさないかい? 冷蔵睡眠せずにさ。」
突然の僕の提案に、少女は目を丸くしてこっちを見た。
「君がいつまでも今の仕事をしていたいっていうなら別だけどさ、
 もっと、これからの自分の幸せを追って行ってもいいと思うんだ。
 僕が君の幸せのために頑張るから、普通の女の子にもどってみようよ。」
「・・・うん。」
人形を抱いたままの少女は、もはや大人ぶった態度すらなく、素直にうなずいた。

また数日後・・・
「これはどういうこと?」
少女は、またも不機嫌そうな表情を見せていた。
「え? なにが?」
僕は何が少女の機嫌を損ねたのか全く想像が付かずに戸惑った。
先日の約束通り、少女は仕事を辞めて僕の家に来た。
そして、僕はこれから少女と一緒に”三人で”暮らすことになる
”僕の婚約者”を紹介した。
僕の婚約者も少女を『きゃー、かわいい』と歓迎した。
何もおかしなことは無いはずだ。少女は何を怒っているのか。
「ちょっと、来てよ。」
少女は強引に僕の腕を引っ張って、そこから離れた。
「私と結婚してくれるんじゃなかったの?」
僕の婚約者から見えない場所に行き、開口一番、少女は言った。
「え? 何の話?」
真顔で聞いた僕に、少女は額に青筋を立てた。
「『幸せにしてやるから一緒に暮らそう』ってプロポーズでしょ!?」
「いや、だって直系尊属とは結婚できないし。」
「だったら、どういう意味で言ったのよ。」
「言葉どおり。家族として一緒にくらしたいなって、思って。」
そこまで聞いて少女は、ものすごくムスっとした表情になった。
どうやら本気でプロポーズだと思っていたらしい。
さすがは13歳で子供を産んだおませさんだと言うべきか。
「…いろいろ納得いかないけど、勘違いだったんじゃ仕方がないわね。
 どっちにしろあんたにしっかり面倒見てもらうわよ。」
少女はこう言って、しぶしぶながら共に暮らすことを受け入れた。

今度は数ヵ月後・・・
「お兄ちゃん、お弁当持って行ってよ!」
すっかりと妹キャラに納まった少女がそこに居た。
本当は妹どころかご先祖様なのだが、まあそこは気にしてはいけない。
「え・・・あ、ああ。」
僕は冷や汗を垂らしながらこの”妹”の作った弁当を受け取った。
”妹”は最近、花嫁修業だといって料理にうちこんでいる。
しかし、かなり不味い。もともと研究一筋で生きてきたから、
料理に関しては経験もセンスも皆無なのだ。
食べたくない、そんな僕の表情を見透かして、”妹”は囁いた。
「私の幸せのために、協力してくれるわよね、お兄ちゃん。」
「うっ!」
それを言われれば言い返せない。
(不味い手料理をむりやり食べさせる義妹って、また典型的な。)
そんな思いと共に、僕はハート型の弁当箱をかばんにしまった。

  • 最終更新:2010-10-23 04:06:31

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