SS0005

無題-作:[ID] dJNT9K1e ■9.01kb


 会社をリストラされた。

 だから、僕は平日の公園を他にやる事無く彷徨っていた。ブランコに腰掛けてキィキィと金属の擦れる音を耳にしながら、何をするでもなく景色を眺める。その陽気な気温は日々の苦労を容易に押し流すだけの安穏を保っていた。

 決して日々の努力を怠っていた訳ではない。しかし、平成の不況は個人の憂慮など気に掛ける事無く決断を与えた。だから、今こうして先立つものも無くスーツの僕はある。幸いにして独身だが、それでも一年と経たず貯金は尽きるだろう。

 だから、何か職を探さねばならなかった。

 そんな時だった、彼女から声を掛けられたのは。

「お暇ですかか?」

「え?」

 不意に声を掛けられて後ろを振り返る。

 すると、そこには一人、女性が立っていた。

 びしっとスーツを着た成人女性である。如何にも仕事が出来る風を思わせる外観をしていた。平日の公園に佇む存在としては場違いだ。だから、次いで自分が返した言葉は疑問をそのままである。

「あの、自分ですか?」

「他に人が居ますか?」

「いや、まあ、こんな時間帯ですから……」

 それが自然と自分に対する皮肉に聞こえて言葉を濁す。

「あ、いえ、別に強く当たった訳では無いのですよ」

「僕に、何か用ですか?」

 勿論、相手に面識は無かった。

「お暇でしょうか?」

「え、ええ、こんな具合ですから、明日の食い扶持に頭を悩ませるくらいですよ」

「そうですか、それは良かったです」

「え?」

 軽やかに語ってみせる女性の言葉に驚いたのも束の間、相手は更なる驚愕を与えるべく言葉を続けた。それは仕事を失って数日を過ぎた自分には、あまりにも話の合う語りであった。

「私、人を探しておりました」

「人、ですか?」

「ええ、お仕事をお任せ出来る人を探しておりました」

「仕事?」

「ええ、人手が足りなくて困っていましたの」

 そうして彼女は微笑んで見せた。その柔和な表情はリストラ宣言を受けてより荒んでいた僕の心を甚く癒して思えた。

 だから、そんな美人局を思わせる怪しい彼女の言葉に、しかし、続く一言を促している自分が居た。

「仕事ですか……」

「ええ、もし宜しければ、私のお話を聞いてくれませんか?」

「話?」

「ええ、決して悪い話では無いと思います」

「え、えっと……」

 平日の公園にスーツ姿の男と言えば、誰が見てもそういう人間にしか見えないだろう。きっと、相手もそれを見越しての話に違いない。だからと言って、こんな怪しい話にホイホイ頷いて良いのかどうか、疑問に思うところはある。

 しかし、こうして声を抱えてきた彼女は非常に美しい容姿をしていた。

 だから、僕は自然と首を縦に振っていた。

「え、ええ、まあ、話を聞くくらいでしたら」

「本当ですか?」

「それで、それというのは一体どういった用件で?」

「ふふ、助かりますわ」

 そうして、彼女はやんわりと微笑んで見せた。

 後になって思ったのだが、その時、彼女の口元は酷く凄惨に釣り上がって感じた。

で、ちょっと間を置いて……。





          ◇      ◆      ◇





「な、なんですか、これはっ!」

 僕は声を荒げて言った。

「何? 何と言ったか?」

「なんでこんな、首輪とか、鎖とか……」

 公園で声を掛けてきた女性に付いて行った僕。

 そんな愚か者を待っていたのは、彼女に導かれ足を踏み込んだ所有者を不明とする車内での意識暗転。そして、次に目を覚ました時には、着ぐるみ剥がされて素っ裸の自分である。

「それは、お前が私の飼い犬だからだろう?」

「い、犬!?」

 目の前には少女が居る。

 椅子に座って、地に座る僕を偉そうに見下している。それは先に声を掛けて来た女性とは似ても似つかぬ幼い少女であった。年の頃はまだ小学校低学年といった風を思わせる。身の丈も非常に小さなものだ。

 金色の髪と真っ白な肌よりこの国の人間では無いと思われる。

「仕事が欲しいのだろう?」

「い、いや、仕事って、君……」

「お前の仕事は私のペットだ」

「ペ、ペットっ!?」

 馬鹿みたいに相手の言葉を鸚鵡返しに問い返す。

 それだけ僕は自らの置かれた状況に混乱していた。最後に意識のあった車内とは一変して、今に居る場所は何処とも知らぬ建物の一室だ。そして、此処には自分と目の前の幼い少女しか居ない。

 自分に公園で語りかけてきた豊満な女性は影も形も無い。

「仕事が無かったのだろう?」

「な、なんでそんなこと……」

「仕事が欲しいならくれてやろう。一日三食、ちゃんと休息も与えるし、清潔な住処も与える。どうだ? 無職のお前には願ったり叶ったりの話だろう? 今すぐに頷いてみせろ、ほら」

 ふと、少女が手にした縄を引いた。

 同時に自分の首が上がるのを感じる。

「んぐっ!?」

 気づけば、彼女の手にした縄の先は僕の首に繋がっていた。

 そう、我が身には首輪が括りつけられていた。

「ほら、ご主人様に挨拶をしろ」

「な、これは、なんで……」

「いいから、挨拶をしろ」

 戸惑っていると上から足が降ってきた。

 椅子に座った少女が組んだ足の片方を下ろしたのだった。頭を無理矢理に押さえつけられて、自然と相手に頭を垂れる形となる。額が冷たい床に当たって痛んだ。

「お前に拒否権は無い、これからは私のペットとして再就職だ」

「な、そんな、なんでいきなりっ!」

「いいから、ほら、挨拶をしろ、わんと鳴け」

「だ、誰がっ!」

「わんと鳴けっ!」

 首輪に繋がる縄が強く引かれた。首が痛いほどに締まる。

 頭を足で押さえられているので、双方からの力が加わり自然と首が絞まる形となる。満足に呼吸も出来ない状況に、自然と首は縦に振れた。いや、頭は固定されているので、客観的には身体をガクガクと振るわせたに過ぎないだろうが。

「そうだ、ご主人様には絶対服従なのだ、分かったか?」

「ぅう……」

「ほら、ワンと鳴け」

「わ、ワン…………」

「声が小さいっ!」

 再び縄が引かれて首が絞まる。

 僕は慌てて声を上げた。

「ワンっ! ワンワンっ!」

 応じて、縄が緩められて器官が開放される。

 喉から漏れたのは安堵の息だった。

「ふふ、アイツも中々良い拾い物をしてきたものだ」

「…………」

 ちっぽけな自尊心は僅か数秒にして地に落ちた。

 そして、そんな僕の態度に少女は満足した様子で笑い声を漏らす。

「いいか? お前は今日から私のペットだ。家畜だ、畜生だ。よーく憶えておけ、お前の生きるも死ぬも全て私が管理する。食事も、排泄も、自慰も、何もかもを私に許可無く行うことは許さない」

「そ、そんな、横暴な……」

「それが嫌なら、この場で死ね、いいか?」

「…………」

 俺が返す言葉に悩んでいると、少女が足に力を込める。

 それは歳幼い少女にしては恐ろしいほどの圧力を伴った。ぐいぐいと頭蓋骨を押して、そのまま骨さえ砕かん勢いが感じられた。勿論、僕に与えられる苦痛は先程の比でなく悲鳴さえ上がる。

「あ、あわ、わ、分かりました……」

「そう、それでいいんだよ」

「…………」

「分かったなら、まずはこれを舐めて貰おう」

 頭に加えられていた圧力がフッと消えた。

 かと思うと、目の前にそれが差し出された。

「ほら、舐めろ、犬」

 そこには少女の足があった。

 日本人には在り得ない真っ白な肌だった。滑らかで艶やかにあり、自分の荒れたそれと比較するには恐れ多く感じる程の代物である。

「な、舐めろって、君……」

「いいから、舐めろ、ほら」

 僕が躊躇していると、少女は自らの足を此方の口元へ無理矢理に押し付けてきた。爪の硬い感触が唇を割る。そして、強引に足先の五指が咥内へ割り込んできた。舌先に少女の足の指を感じる。

「いいか? 歯を立ててみろ、その身を引き裂いてくれる」

「ふぁふうほぉあっ!?」

 驚愕に危うく咥内の異物を噛みそこねた。少女の言葉が妙に強く脳裏に響いて、僕はそれを吐き出すことに躊躇した。その場の異様な雰囲気が、普通なら在り得ない彼女の発言を、しかし、何故か現実的なものとして僕に伝えていた。

「丹念にしゃぶれよ、指の一本一本まで、しっかりとだ」

「ふぉ、ふぉんはぁ……」

「いいからしゃぶれ」

 足の指は強引の喉へと突き出される。敏感な部分に触れて嘔吐しそうになるのを必至に押さえる。

「家畜の分際で主人に口を聞くか?」

「ふぁ、ふぁんほぁ……」

 挑むような少女の視線が届いた。

 同時に、少女は再び手に持った縄を引っ張った。

「んほぉあぁっ!?」

 応じて僕の首輪が引き上げられる。けれど、それを見越してもう一方の足で押さえられた頭は固定されて、ただ喉が絞まるばかりである。喉元を圧迫されて息が出来ない。縄を引く力は強大で抗うことも微塵と叶わない。

「ふぁ、ふぁふぁふぃっふぁはぁあっ!」

「苦しいのが嫌なら私の言うことを聞け、いいな?」

「ふぁ、ふぁふぃ……」

「いいな?」

「…………」

 少女の言葉は絶対だった。逆らっては本当に命さえ落としかねないと思って、僕は彼女の足の指を舐める事とした。言われたとおり、その指の一本一本に至るまで、恐怖が舌を動かせた。

「そうだ、初めからそうしていれば痛い目をみることも無かっただろうにな」

「…………」

 そんな僕を少女は満足気な表情で見つめる。

 少女の足は特に味がすることも無く、また、匂いが香ることもなかった。しかし、人体において最も粗雑な肌にも拘らず木目細かなそれは、舌の滑りも極上にあった。自分の腕の肌と比較しても尚のこと質高く感じる。

「お前はこれから、永遠に私のペットだ、いいな?」

「……………」

「返事をしろっ!」

 再び首輪を引き上げられる。

 僕は堪らず鳴いた。

「ふぁ、ふぁふぃっ!」

「そうだ、それでいい」

 頭上に見上げる少女の笑みは、とても可愛らしいものだった。

「しっかり舐めろよ? 美味いだろう? 私の足は」

「ふぁぃ……」

 僕は少女の足を必至で舐める。その指の一本一本を丹念に舐める。指と指の合間も舌の及ばぬ箇所が無いように舐める。逆らっては首輪を締められる。その恐怖が故に、必死になって舐め尽くした。

 そんな僕を少女はただ眺めるだけだ。

 足元に傅いた僕は少女の膝下にある。少女は椅子に座って居るから、自然と此方は彼女に見下される形になる。そんな中で、僕は彼女を見上げながら、必死になって足を舐めて、舐めて、舐め続けた。

 爪の硬い感触を舌先に感じては、その先まで丹念にしゃぶる。爪と肉の合間に挟まったゴミを擦り取るように舌を動かす。爪を磨くように舌を動かす。指と指の合間を洗うように舌を動かす。

 二度と首輪が締められる事の無いよう舌を動かした。

「そうだ、それでいい」

 そんな僕を見下して、少女は楽しそうに語って見せた。

  • 最終更新:2009-08-30 23:56:48

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