パラレル春菜ちゃん1-6

パラレル春菜ちゃん-作:◆KazZxBP5Rc  ■6.72kb


#6 かぞく


「もう、お姉様ったら、30年近くもソフィをほったらかしにして何してたのです!」
「えーっと、ご、ごめんね?」
突然現れた少女は、春菜が出した洋菓子を少しずつちぎって食べながら話す。
透き通るほど白い肌を、フリルをふんだんに使ったピンクのドレスが包んでいる。
まるでどこかの西洋人形みたいだ。
怒っているのだろうけど、その可愛らしさゆえに全然凄みを感じない。
そんな彼女ではあるが、正体は歴とした吸血鬼だ。
ソフィ・ハールマン、198歳。セラの実の妹である。
「……お姉様、雰囲気変わりました?」
「ん? ああ、私、転生体だから……。」
「転生体?」
「えっと、セラが自分を封印して転生したから、その間に育った人格が私。セラはもう目覚めたからいつでも交代できるけど……。」
「いいのです。お姉様には違いないのです。」
「そう……なのかな?」
ソフィは菓子を食べ終え、今度は楽しげに部屋を物色し始めた。
(それにしても、セラに妹がいたなんてね。)
吸血鬼とは孤独な存在であるのだとなんとなく思っていた。
そもそもこの15年間、セラは妹の存在なんて一言も口にしなかったのだ。
今だって、ソフィが妹だということを春菜に教えただけで、それ以降はずっと黙ったままだ。
ハールマン姉妹の家庭事情も気になるところだが、春菜にはもうひとつ思うことがあった。
(私も長いこと帰ってないなぁ。)
それは、実家にいる両親のことだった。
はしゃぐセラの妹を見て、自分も家族が恋しくなったのだ。
(休みもまだまだ残ってるし、たまには顔見せにいかないとね。)
行動力が売りの春菜は、早速スーツケースを引っ張り出した。

「ここがお姉様の住んでた街なのですかー。」
駅に降り立ったソフィは感心したようにつぶやいた。
高架なのでホームからある程度街の様子がうかがえる。
すっかり日も暮れて、駅前は人工の明かりに照らされていた。
ソフィを連れてきたのは、本人の希望もあるが、他の理由もある。
春菜は彼女を両親に紹介するつもりなのだ。
同時に、秘密にしてきたセラのことも話そうと思っている。
もともと、いつかは言わないといけないと感じていた。
その“いつか”として相応しいタイミングがあるなら、いろんなことが起きた今しかない。
と、春菜はそう思っていた。

懐かしい景色を歩きながら、春菜はソフィと話していた。
「そういえば、どうして私の居場所が分かったの?」
「何日か前に、お姉様の強い力を感じたのです。」
「そっか、吸血鬼って気配で分かるんだったっけ。」
「ソフィとお姉様は血のつながりがあるのです。だから、普通より遠くまで気配を感じられるのです。」
ソフィは遠慮がちに付け足す。
「お姉様、その、何かとても怒っていたようですから、ヨーロッパまで伝わってきたのです。」
「そう……あ。」
「どうしたのです?」
「ううん、なんでもない。」
話に夢中で注意が向いていなかったが、春菜たちは既に“あの場所”の近所まで迫っていた。
あの角を曲がれば、丸暗記した住所が示す地点にたどり着く。
しかし、足繁く通った家は今は無い。
当然だ。15年も前に家主はこの街を去ったのだから。
今そこにあるのは弁当屋のチェーン店だった。
「……晩ご飯買っていこうか。」
「はいです!」

「ここがお姉様のお家なのです?」
「うん、ちょっと待っててね。」
チャイムを鳴らすと玄関に出てきたのは春菜の母だった。
彼女はとても26歳の娘を持つとは思えない若さを保っている。もちろん春菜ほどではないが。
「はーい……あら、春菜じゃない。帰ってくるときは連絡くらい入れてちょうだいよね。で、会社クビにでもなったの?」
「有給取っただけだよ。」
母の元気な顔を見た安堵から、春菜の顔にわずかに笑みが浮かぶ。
「ご飯作ってないわよ。」
「大丈夫、途中でお弁当買ってきたから。」
「そう。で、そちらさんは?」
母は春菜に隠れるようにしていたソフィに気付き、体を傾ける。
「あ、えっと……」
どう言おうかと春菜が迷っていると、ソフィが先に答えてしまった。
「ソフィは春菜お姉様の妹なのです。」
「ちょ、ちょっと!」
親の前で説明も無しに産んだ覚えの無い妹を名乗られても誤解されるだけだ。
母は案の定首をひねっている。
春菜は溜息をつきながら言った。
「……お父さんいる? 大事な話があるの。」

世田親子とソフィの4人がテーブルを囲み、嘘のような本当の話が始まった。
「実は私、吸血鬼なの。」
自分が吸血鬼の生まれ変わりであること。
自分の中に生まれ変わる前のもうひとつの人格があること。
最近、自身も吸血鬼として目覚めたこと。
転生前の妹のソフィが今日自分を訪ねてきたこと。
春菜は、ハンターや“彼”やツェペシュのことは秘密にして、残ったことを全て話した。
話の間、両親は黙って耳を傾けていた。
「――というわけ。」
春菜の話が終わると、母は優しく微笑んだ。
「そうだったの。」
あまりに素直すぎる反応だった。
何も知らない自分が聞いたら、どう考えても作り話にしか聞こえないと思う。
春菜の胸に疑惑が生じる。
「信じてないでしょ。」
しかしそれは即座に打ち消された。
「そんなことないわよ。」
「ずっと変わらないお前を見てきたからな。」
じゃあ、なんでそんなに笑っていられるの?
疑心が春菜に質問を投げかけさせる。
「怖く……ないの?」
「どうして?」
「だって……私、人間じゃないんだよ?」
なぜそんなことを口走ったのか分からないが、自身のその言葉が春菜の恐怖を加速させる。
見かねた母が、テーブルを回って春菜のそばに寄り、震える春菜の両手をギュッと握った。
「たとえそうだとしても、あなたは私がお腹を痛めて産んだ子に違いは無いんだから。」
涙をこらえきれなくなった春菜は、母の胸に飛びつく。
(セラ、この人たちを選んでくれてありがとう。)
一日中黙ったままの半身に感謝を投げかけたが、返事はやはり無かった。

夕食も終え、落ち着いた春菜は、今度は元気いっぱいにソフィに話しかける。
「ソフィちゃん、一緒にお風呂入ろ!」
「ふぇっ? お、お姉様とです?」
「もちろん!」
恥ずかしそうにもじもじするソフィだったが、春菜がその腕を脱衣所まで強引に引っ張ってゆく。
その様子を眺めていた両親は顔を見合わせて笑った。
「春菜、嬉しそうねぇ。」
「ずっと一人っ子だったからな。」

脱衣所の中でも鼻歌を歌いながらソフィのドレスを脱がせていた春菜だったが、あらわになった背中を見ると、言葉を失った。
彼女の首から下には無数の傷が残っていたのだ。
「お姉様……あんまりジロジロ見ないでほしいのです。」
「あ、ご、ごめん。」
慌てて取り繕い、浴室へ入るようソフィを促す。
春菜が服を脱いで入った時には、ソフィはタオルの入った洗面器を抱えて仁王立ちしていた。
「お姉様、オセナカナガシマスネ。」
「ありがとー……ってちょっと、前は自分で洗……きゃあっ!」

「じゃあ電気消すね。」
「はいなのです。」
2枚セットで売ってた色違いでおそろいのパジャマを着て、二人は一緒のベッドにもぐりこんだ。
「お姉様……。」
春菜が真っ暗な天井を眺めていると、ソフィが寄りかかってきた。
「ソフィは、寂しかったのです。」
ソフィの甘えるような声。
そのとき、春菜の頭の中にある光景がフラッシュバックした。
異国の街並みの中をハンターから逃げる自分とソフィ。
その最中、ソフィが石畳につまずく。突然現れた男。
男の顔を確かめる前に、映像は切れてしまった。
「ヨーロッパでは吸血鬼の迫害は厳しいのです。」
セラがいない間、どれだけ辛い目に遭ったのか。
服の中に隠されたいくつもの傷はそれを物語っていたのだろう。
春菜はソフィの体を引き寄せて抱きしめる。
姉妹は身を寄せ合うように眠りに落ちていった。


つづく


#おまけ


ソフィ「お姉様、ハッピーバレンタインなのです!」

春菜「わぁ、チョコレート? ありがとう!」

ソフィ「丹精込めて作ったのです。」

春菜「あれ? 指ケガしたの? 絆創膏貼ってあるけど。」

ソフィ「違うのですよー。ソフィの血を混ぜたのです。」

春菜「……私が今食べてるこれに?」

ソフィ「はいです!」

春菜(吸血鬼の常識って……。)


おまけ おわり


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  • 最終更新:2011-05-16 21:12:50

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