パラレル春菜ちゃん1-3

パラレル春菜ちゃん-作:◆KazZxBP5Rc  ■3.80kb


#3 まえぶれ


とあるビルの一角。
カーテンの閉まった部屋。
暗闇の中に灯る26の光。
その明かりによって微かに映るのは、黒い服をまとった数人の男女の姿。
春菜を取り囲んだ彼らは、この儀式に欠かせない歌を歌う。
やがて歌は終わり、春菜は光に息を吹きかけた。
「誕生日おめでとう!」
スーツ姿の同僚たちの声が、拍手と共に狭いオフィスに響いた。

大学を卒業した春菜は、とある出版社に就職した。
それから4年。今日、春菜の年齢は“あの時”の“彼”と同じになる。
しかし、どんなに追いかけようとしても年齢は追いつくことはできない。
時間は“彼”にも平等に15年流れているはずだ。
ましてや春菜は少女のまま成長しない身。
見た目の年齢で言えば差は広がる一方である。

哀愁の溜息を交えながら春菜が切り分けたケーキを頬張っていると、上司が声を掛けてきた。
「せっかくの誕生日にいきなりで済まないんだが、編集を頼まれてくれないかな?」
「あ、はい、大丈夫です。クライアントはどちら様で?」
「オカルト本やファンタジー小説で有名なツェペシュ氏だ。」
「分かりました。では連絡先を」
「あー、いや、実はもう既においでになっているんだ。」
「えっ?」
「応接室2にいらっしゃるから、今から向かってくれないか?」
「……はい。」
余ったケーキにラップをかけ冷蔵庫に入れる。
ぬるくなった紅茶の残りに、ポットから熱々のを継ぎ足して一気飲み。
それらの動作を素早く終え、春菜はエレベータに向かった。

上司には笑顔で応えたものの、春菜は実はあまり気乗りではない。
なにせこっちは自分自身がマジモンのオカルト的存在なのだ。
世田春菜は、吸血鬼・セラ・ハールマンの転生体である。
セラは春菜の中にもう一つの人格として宿っている。
春菜の外見年齢が11歳のままなのはそのことが影響しているのだ。
テレビの心霊番組やら雑誌の占い師特集やらがどれほどインチキか。
それをやたらと主張するセラの影響で、春菜もその手の物は斜めに見るようになった。
そんな事情もあり重い足取りのまま、春菜は応接室のドアノブに手を掛けた。
「失礼します。」
最初に目に入ったのは、背の高い男の後ろ姿だ。
彼は後ろ向きに手を組んで、窓の外を眺めていた。
やがて、彼はゆっくりと春菜の方に振り返った。
(赤い……瞳……!)
(やはりな。)
春菜が動揺する一方で、セラは納得した様子だ。
男は口角をにやりとつり上げた。覗いた歯の中に牙が見える。
春菜がドアを後手に閉めると、男は澄んだ声を出した。
「久しぶりですね、セラ。」

(代われ。)
(で、でも……。)
(心配するな、昔の知り合いだ。それにこんな所で暴れるほど奴も私も馬鹿ではない。)
(う、うん。)
目を閉じて開きなおすと、彼女の瞳は、男と同じ赤へと変わっていた。
「ツェペシュ、何をしに来た。」
「仕事ですよ。聞いたでしょ?」
「嘘だな。」
「……流石ですね。」
セラと交代した春菜だが、以前のように気を失うなどということはもう無くなっていた。
黙って二人の会話に耳を傾ける。
「実は、ハンター共のアジトを見つけまして。」
「私に殲滅を手伝え、と。」
「話が早くて助かります。」
ツェペシュの話を聞いて、春菜の中に衝撃が走った。ハンターの基地?
交代していて良かった。春菜がセラの言葉を代弁するだけだったら、きっと動揺が外に現れてしまう。
春菜は心の震えを抑えながらセラに告げる。
(協力するって言って。)
「……分かった、もちろんだ。私にとってもハンターは邪魔でしかないからな。」
「有り難い限りです。」
ツェペシュは本音の窺い知れない口調で返す。
(いつ?)
「で、決行はいつだ?」
セラが春菜の疑問を横流しすると、ツェペシュは、どうやら答えを用意していたようで、即答だった。
「明日です。」
「あ、明日!?」
これには珍しくセラも驚きを隠せなかった。あまりにも突然すぎる。
「善は急げ。貴女と一緒ならば何の準備もいりませんよ。警備の隙を突くだけで十分です。明朝4時頃が良いでしょう。」
怪訝な顔をしたまま固まっていたセラを春菜がフォローする。
(どこ?)
「で、肝心の場所を聞いていないぞ。」
セラの問いに、ツェペシュは声をひそめた。
「飯田製薬の本社です。よろしくお願いしますよ。」

その後。
形だけの仕事の打ち合わせを済ませ、春菜は事務室の自分の机に戻ってきた。
冷蔵庫に入れておいたケーキを取り出して再び食べ始める。
硬くなってて、あまり美味しくない。
(セラ、明日は……。)
(分かってる。何年貴様と過ごしたと思ってるんだ。)
セラは理解してくれている。春菜の顔に笑顔が戻った。
決戦は、明日。


つづく



  • 最終更新:2011-02-11 00:29:33

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