セラ様二次創作1-4

セラ様二次創作-作:◆69qW4CN98k ■9.88kb


#4


会場の奥で丸テーブルが並んでいた。
テーブルの上には一皿、二つのケーキが置いてある。
傍には係員が台座を準備して代わりをたくさん用意している。
丸テーブルには二人一組のペアがそれぞれ座ってケーキを食していた。
空になった皿は係員が回収し、新しい皿が置かれる。
それはまるでケーキのわんこ蕎麦。
春奈も彼も参加者として出場していた。

「……大丈夫か?」
「セラ様はお気になさらず! わたくしめにお任せを!」

もっとも、主に食べているのは彼だったが。
参加しなかった人たちは、遠巻きに丸テーブルのペア達を応援している。
彼はそんな歓声に応えるように、側の春奈の期待にそえるように頬張っていく。

「はは、いいぞー」
「無理しちゃダメよー」

春奈組の係員の台座に皿が積み上がっていく。
春奈はちらりと周りを見渡すが、どうやら彼ほどの必死さは他の組には感じられない。
まるで餓鬼のように貪る彼。
普段ならはしたないとたしなめる所だが、春奈にはその必死さが嬉しかった。

(ふふ……)

勝利の栄光を君に。
ずいぶんと臭いセリフだが、それが実に彼らしい。
これが終わったらセラらしく誉めてやろう、春奈はそう思った。
そんな春奈の耳に、ひときわ大きい歓声が聞こえた。
ウォォォオンッ!

(なんだ……?)

歓声の上がった方向に視線をむける。
そこには青年と少女の組がいた。
青年はゆっくりとケーキを切り分け、しっかりと味わっている。
それは一個一個のケーキの僅かな味の差を見逃そうとしない、批評家のようだった。
一方の少女は―――

「なんだ……と?」

ウォォォオンッ!
歓声がまたあがる。それもそうだろう。
春奈は、目の先の光景が信じられなかった。

少女、ツインテールの少女。
歳は春奈と同じくらいだろうか、その少女が口を開けた。
ガォンッ。
するとケーキが消えた。後には空の皿が残される。
慌てて係員が別の皿を置く。
少女はフォークを使うのももどかしく、素手でケーキを掴む。
ガォンッ!
また、ケーキが消えた。
消えたのではない。
少女は、一口で、次から次へと、ケーキを腹に収めていく。
これは食べるという行為だろうか、それとも別の何かだろうか。
明らかに異なる異例の速さで、空皿がうず高く積み上げられていく。



「頑張りますねぇ」

青年、柏木は横の少女にむかって気だるげに言葉をむける。
フォークを動かすことは忘れない。
そして、味わうことも忘れてはいない。
ケーキのひとつひとつに職人の技がこもっているからだ。
おろそかにすることは出来ない。
横の少女、発子・クリーシェはそんな柏木にこたえる

「あたりまえよ」

ガォンッ!
またケーキが消えた。

「最近、影がうす…いえ女神として人間には負けられないわ」


ガォンッ!
手についたクリームを舐めとる。
その間に係員はすばやく代わりを置く、しかし。
ガォンッ!
またケーキが消えた。

「過ちは正さなければいけないわ。女神を、創発の女神に勝とうなどという過ちは」

ガォンッ!

「ひとつひとつ」

ガォンッ!

「確実に確実に」

台座の代わりが無くなりそうな事に気づいた係員が身振りで他の係員に知らせる。
そんな事はお構いなしに、クリーシェは次々とケーキを飲み込むように食べていった。

ガォンッ!
ガォンッ!
ガォォォンッ!

「味わいながらこのクリーシェの胃袋亜空間へばら撒いてやるわ……」
「ですか」

他の組を突き放す圧倒的スピード。
見ている観客は再び歓声をあげた。
柏木はそんな声に応えるように手をあげ、グラスへ口を運ぶ。
一方の発子は歓声なぞどこ吹く風とばかりに手を口を動かしていた。
畏ろしい。
その姿は餓鬼などという形容では生ぬるい。
暴食を司る大悪魔。それが少女の姿を借りて顕現したかのようだった。

「発子……発っちゃんじゃないですか!」
「し、知っているのか?」

春奈は青年の名は知っていた。いや、思い出したというべきか。
たしか柏木、多彩な才能を持つ芸術家。
各方面で噂になりTVに引っ張りだこの時の人だ。
しかし少女の方は記憶の糸に引っかからない。
見識の無い少女の名を挙げた彼に驚きと、軽い嫉妬が起こる。



「ええ、知ってます。たしか『月刊ロリババァジャーナル』で見たことがあります」
「なるほど、ロリババァ……」

(……ですって!?)

春奈は驚愕した。
もう一度、彼の言葉を反芻する。

(ロリババァ、ロリババァですって!?)

ロリババァ。
彼が憧れる存在。
春奈は偽ってその存在を手に入れた。
彼のために。彼が好きだと言っていたから。
だがしかし。
春奈は視線を動かす。
その先にはケーキを頬張る少女の姿。
蒼髪のツインテール。くりくりとした眼。愛くるしい顔立ち。
春奈には理解できた。彼との逢瀬の前に化粧をしてきた春奈には痛いほどわかる。
少女が別段手入れをせずとも、容姿を維持できる事に!
春奈には、言葉ではなく、魂で理解できた。
春奈の脳内で昔彼が言った言葉が反響していた。

(ロリババァとは―――)

ロリババァとは、ひとつ無敵なり。
ふたつ決して老いたりせず、みっつ決して死ぬことはない。
よっつ幼女の可愛さと熟女の知識を兼ね備え、しかもその能力を上回る。

(そして、その姿はギリシアの彫刻のように 美しさを基本形とする……だったかしら?)

ちらり、と春奈は彼を見やった。
彼は発子を食い入るように見つめていた。

「うわーすげー! すごいですねセラ様! 他のロリババァ様を肉眼で確認ですよ!」

彼の笑顔。春奈が好きな彼の笑顔。
だが、その笑顔をみた春奈の胸の奥で、黒い何かがじくじくと疼きだす。
彼が笑っている。
誰を?
奴を!
他のロリババァ(オンナ)に対して!

(渡さない……渡さないもん……)

じくじくと何かが痛む、疼きだす。
今までに感じた事の無い感情。
春奈はトントンと指先でテーブルを叩き、係員を叱った。

「おい」
「は、はい?」
「男ばっかりで私にケーキを寄越さぬとはどういうつもりだ?」
「あっ! す、すいませんでした、ただいま!」

イライラした口調に、係員は慌てて春奈の方にもケーキを運んだ。
ブスリとケーキにフォークを突き刺し、春奈は前日に叩き込んだマナーなどお構いなく口に頬張る。
咀嚼し、水で流し込み、空になった皿を店員に突き出す。
代わりのケーキにまたズブリと突き刺し、はしたなく食べていく。



「セ、セラ様?」

隣から放たれる殺気に気づき、彼は春奈へと視線を戻した。
彼は戸惑っていた。
そこにはいつもの冷静なセラ=ハールマンは存在していなかったからだ。

「セラ様、どうなされました? いつもと様子が―――」
「五月蠅い! 私に指図するか!」

珍しいセラの激昂に彼は大人しくなる。
そんな彼を見ようともせずに春奈はケーキを食していく。

(渡さない! 渡さない! 渡すもんかぁ!)

春奈の体にどす黒い感情が溜まっていく
彼の笑顔と、むこうの少女を思い浮かべる度にじくじくと疼いていく。
溜まっていく感情を薄めるかのように春奈はケーキをおさめていく。

(彼が好きなのはロリババァ……)

ロリババァとは、ひとつ無敵なり。
ふたつ決して老いたりせず。
みっつ決して死ぬことはない。
よっつ幼女の可愛さと熟女の知識を兼ね備え、しかもその能力を上回る。

(そんなロリババァでも彼が一番好きなのが……セラ=ハールマン! 二百歳吸血鬼のロリババァ!)

彼が気に入るために、努力をしてきた。
彼に気に入られるために、常日頃努力を欠かさなかった。
1ゾロ経験点を何回手に入れたか分からないくらい、失敗を隠し努力をし続けてきた!

(ワタシが……彼を一番好きなんだーーーーーーっ!)

春奈は彼が好きだった。
だからこそ、ロリババァと偽ってでも彼の側に居たかったのだ。
だからこそ……だからこそ!

(やらせはせん! やらせはせんぞ!)

春奈は少女を見た。明らかに早い。明らかに差がある枚数。
それでも春奈は口とフォークを動かし続けた。
彼の声など耳に入らない。

(貴様ごときロリババァに! セラ=ハールマンのプライドを! 世田の栄光を!
 やらせはしない! 他のオンナに……彼女の座をやらせはしないわーーーーーっ!)

生クリームが油のようだ。
スポンジが口内の水分を奪っていく。
歓声が遠く感じられる。彼の声が聞こえたような気がする。

(暗い……いつのまにか明りが……明りはどこかしら……)

喉へとこみ上げくる胃酸を春奈は寸前で我慢した。
どうやら会場がBGMを変えたようだ。ゴーン、ゴーンと頭に響く音がする。
しかしそれでもお構いなしに、春奈はフォークを動かした。
だが手はむなしく空を切った。

(暗いからだわ……ケーキを……明りを……!)



ゴーン。ゴーン。
ゴォォォーーーーン。
低い銅鑼のような音が響く。

(暗い……明りを……ケーキを……係員は何をしてるの!?)

春奈は辺りを見回した。
彼の心配そうな表情。
彼がどうしてそんな顔をするのか、わからなかった。

(どうしてそんな顔を……アレ?)

ぐらりと、春奈の身体がよろめいた。
そして、大事なことに気づく。

(暗いんじゃない、アタシが―――)

駄目なんだ、そう思った時には遅かった。
薄れゆく春奈の意思が最後に見たもの。
それは、春奈を抱きかかえる彼の姿だった。


春奈が気がつくと、後頭部に柔らかい感触があった。

「気がつかれましたか?」

頭上から彼の声。目をむけると彼の顔がある。
どうやら膝枕をされているらしい。
左右に首をむけるが、知らない部屋だ。

「ここは?」
「会場の一室ですよ」

彼の言葉に少し思案し、春奈は納得した。

(そうか……)

春奈はケーキバイキング中に喉を詰まらせ失神したのだった。
シャツのボタンが空いてるが、おそらく気道確保とか色々やられたのに違いない。
なんという事だろう。春奈は嘆息した。

「みっともない処を見せてしまったようだな」

いつも通りのセラの口調になり、春奈は彼に呟いた。
本当になんという事だろう。
彼の憧れるロリババァを演じてきたというのに、大失態を演じてしまった。
これでは彼もセラ=ハールマンに、世田 春奈に呆れるに違いない。
一時の気の迷いとはいえ、馬鹿な事をしてしまった。
春奈はいまさらになって後悔したのだった。
そんな春奈に、彼は答える。

「そんな事はありませんよ」

彼はそう言って微笑んだ
いつもと変わらない彼の笑顔だった。



「今日は意外な一面が見れて良かったですよ、誘ったかいが有ったってもんです」

春奈の好きな彼の笑顔だった。
まだぼんやりとしている春奈にはその表情はよく見えない。
ぐいと、彼の頭の毛を掴み近づけさせる。
床に移る影と影が重なり、そして離れる。
後には目を瞑る春奈と、呆けた顔をしている彼。
唇に指をあて、先ほどの感触を思い出す。
甘い甘い、ケーキの味。

「え、ちょ、いま何を……セラ様……セラ様?」

セラはすうすうと寝息を立てていた。その様子を訝しがる彼。

「狸寝入り? 嘘でしょ? セラ様、セラ様ってば!」

彼の言葉を聞きながら、寝たふりを続ける春奈。
動揺している彼に、春奈の頬に差している赤みには気づくことができなかった。


会場。
イベント後の会場。
すでに片付けは終わり、係員が清掃を始めている。
そこに丸テーブルがひとつ。
テーブルに鎮座しているトロフィーを気にも止めず、クリーシェは食事を続けていた。
主任は柏木の連れに慮る様に、恐る恐る声をかける。

「あの、申し訳ありせんが当会場はそろそろ閉めますので」
「だそうですよ、クリーシェさん」

柏木と主任の声に、面をあげる発子。
そして、主任にむかって答えた。

「お代わり」
「ちょっとーーーーーーー!?」
「ハハハ、花より団子ってことですね」
「ハハハじゃないですよ。柏木さん、何とかしてくださいよーーーっ!」
発子・クリーシェは会場内の全ての人々に女神の威光を見せつけ、そして只今自己ベストを更新中だった
めでたしめでたし・・・?


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  • 最終更新:2011-05-16 23:05:31

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